長期戦のイチゴ

◆6月初旬でイチゴの収穫は終わりである。終わると同時に来年に向けての作業が始まる。苗に追肥をして、元気を出してもらう。イチゴは種から育てるのではなく、苗から育てるのである。苗から育てるというと、その苗はどこから来たのかという疑問が出ることになる。苗はイチゴから出て来るのである。収穫の終わったイチゴの株元からランナーというツルのようなものが伸びてくる。20~30cm程度伸びたところにひょっこりと苗ができる。その苗が土に接すると、その部分から根が出て根付く。すると、またその先からランナーが伸びて苗ができる。これを5回程度繰り返す。したがって、1本のランナーから4本程度の苗が取れる(最初の苗は病気を持っていたり、大きくなりすぎていることが理由で使用せず、2番目の苗から使用する)。1株のイチゴから6~7本のランナーが出る。5株もあれば100本程度の苗が取れる。このようにして取れる苗は、親株と同じ遺伝子を持つクローンである。自宅で栽培するにはありがたいことであるが、品種改良する面ではデメリットとなっている。

 毎年、多くの実をつける株から苗をとり、さらに多くの実をつける株に・・・。しかし、実際には全く実を付けない株もちらほら。なかなか思い通りにはいかないものである。とはいえ、毎年大量の苗を購入しなくて済むのは助かる。数年に一度は病気の影響を受けていない苗を購入するのがいいらしい。しかし、毎年100株程度の苗を植えるわが家庭菜園では、一度に購入することはできない。数株を新規に購入し、それを増やして栽培を続けている。

 間もなく、ランナーがあちこちから伸びて、その所々に苗ができ・・・。知恵の輪のように入り乱れたランナーをさばきながらの苗作りが始まる。ちょっと油断をすると、1つのポットに2株が育っていることがある。

 

◆イチゴはナメクジの大好物である。したがって、この土作りの段階からナメクジ対策が始まっている。ここで使用する土は全て殺菌済である。殺菌という言い方をすると、薬品を使った作業を想像しがちであるが日光消毒である。家庭菜園の土をブルーシートに広げること1週間、真夏の炎天下でカラカラに乾燥させる。これで土中にいるナメクジや雑菌は全滅である。もちろん有用な菌もすべて死んでしまう。殺菌した土に腐葉土、牛糞、油粕、発酵鶏糞、魚粉、牡蠣殻、そして麦わらを加え、水をまきながらきれいにブレンドする。この時忘れてならないのは、菜園の土である。これを混ぜることで土中の細菌を復活させてやる。プランター24個分(イチゴ苗95本)の土をブレンドするのは大変な作業である。これを助けてくれるのがピアンタ(小型耕運機)である。ブレンドした土をプランターに入れ、秋までなじませる。その間に土の酸度を測定し弱酸性に調整をする。

 このようにして出来上がった土にイチゴの苗を植えていく。イチゴは面白い性質を持っている。ランナーから派生した苗は、そのランナーと反対側に実をつける。したがって、プランターに植える際は、ランナーの向きを一定にしておくと、その反対側に実が付き収穫しやすくなる。

<ブレンド開始>

 

<完了>

 

<秋まで熟成>

◆10月 今年は完璧な土づくりを目指したにもかかわらず、大きな失敗があった。プランターへ苗を植え付けて2週間後に、葉に異常が出だした。葉の周囲が枯れだしたのである。1株、2株の時はそれほど気にもしていなかったのであるが、どんどんその数が増えていった。完全に枯れてしまった株も出だした。病気を疑い、いろいろと調べたが、該当する症状がない。2週間もたってから現象が出だしたので、まさか土が悪いとは思わなかった。そうこうしているうちに30株くらいの葉が枯れだした。土の酸度を確認したがそれほど大きく外れていない。やや酸性を弱くする方向へ修正したが変わらなかった。状態の悪い株を掘り出すと、白いはずの根が黒ずんでいた。水はけの悪さによる根腐れと判断し、大急ぎで、すべての株を再度、ポット(苗を育てるビニール製の植木鉢)に移した。すると、大半が元気を取り戻し、小さいながらも元気に葉を出しだした。土の水はけを良くするために、大量の鹿沼土と赤玉土を入れた。このようにして、土の排水性と通気性を良くしてから苗をプランターに戻した。その後は元気に育ってくれている。最大の危機を無事に乗り越えた。これで一安心である。

<酸度を調整するも変化なし>

 

<ほっと一安心>

◆イチゴは冬の寒さに一定の日数以上さらさなければ花が咲かない。サクラと同様に寒さが必要なのである。この寒さを経ることによって、きれいな花を咲かせ実を結ぶのである。まるで作り話のような内容であるが事実である。上記で収穫した苗を大事に温室に入れて育てたのではイチゴはできないのである。冬になると、イチゴの葉はロゼット状となり、地面にべったりと張り付いたように広がり休眠状態となる。この葉が、春になり暖かくなると、一斉に立ち上がってくる。なかなか見事な光景である。自然の不思議を考えさせられる。この時に肥料が適切でなく多く施し過ぎると、葉ばかりが成長して花が咲かなくなる。全く実をつけないままシーズンを終えてしまう。1年かけて大事に育てたにもかかわらず、長く伸びた茎に大きな葉を青々と茂らせ、大きな顔でプランターを占有する。まるで観葉植物のようになってしまう。このような状態を見たときは、一生懸命施したナメクジ対策がなんとも空しく感じられる。無理やりナメクジを連れてきても、食べるものがないので逃げ出してしまうだろう。

 

<ロゼット状態でも中心部のクラウンには春に向けて新芽が息づいている>

 

◆イチゴ栽培の敵はナメクジ、アリ、鳥である。家庭菜園では最も敵が多く、防御が難しい野菜である。土作りで書いたように、ナメクジは最初から土の中にいるので、まずこれの除去を徹底的にしておかなければならない。一旦プランターの中に入ると除去は難しい。明るい時間帯はプランターの底へ移動しているため手が入らない。どうやってプランターの底まで行くのか不思議である。人が近付かない夜や雨の日に地上へ出てきて赤い実を食い荒らしている。おそらく臭いに引き寄せられるのであろうと思われる。イチゴが赤くなってからもやって来られないようにしなければならない。少々の高さの台では登ってくるので、登れないようにしなければならない。アリはどこからともなく行列をつくってやってくる。そして、狙いを定めたイチゴの株の下に穴を掘って、そこに巣のようなものを作り始める。そのままそこを住居にして住み着いてしまう。プランター全体がアリのマンション状態になってしまう。これも困ったものである。これらを寄せ付けないためには、プランターを設置している台の足を、水を入れた缶に入れておくのである。これで、ナメクジ、アリは登って来られない。これらに対する防御はこれで完成である。鳥に関する防御は、毎回のようにネットである。プランター置き場全体をネットで囲うことで防御できる。これでやっとイチゴが色づくのを安心して待っていられる。

 イチゴは柔らかい実である。傷が付いたり、雨の跳ねがかかったりして傷つかないように敷き藁をする。これは毎年冬に栽培をするコムギである。これを押し切りで細かく切断し、プランター一面に敷くことで、イチゴに土が付くことを防げる。非常に重宝するありがたい補助資材である。

<アリ、ナメクジ防御策>

 

<鳥防御策>

 

<雨防御策>

 

◆花が咲き実になり、5月上旬には赤く色づく。今年は例年に比べると寒い日が続き花の咲くのが遅れた。花全体が受粉するときれいな円錐型の実になる。例年、花が咲き始めるころは、まだ寒くて虫が少ないためなのか花全体が受粉しない。虫が気まぐれにちょこちょこと歩いただけでは、きれいな形にはならずいびつな形のイチゴができる。5月初旬に収穫するイチゴはいびつなものが多い。また、苗による遺伝もあるように思う。形の悪いイチゴばかりがなる苗もある。中旬に収穫するイチゴは大きいものが多い。そして、徐々に安定した大きさと形のイチゴが収穫できるようになる。家庭菜園の良さは、完熟するまで収穫せずに置いておけることである。赤を通り越してやや黒ずんだ色になる。見た目には真っ赤に熟しているように見えても裏返すとまだオレンジ色のものが多い。このようなイチゴは裏返して日に当たるようにしておくと、翌日には全体が真っ赤になる。そのまま放っておくと2、3日後に完熟となる。太陽の力を実感させられる。苗を95本植えているので、2日に一度ザル(直径20cm)に1杯収穫できる。最盛期には2杯収穫できる。形のいい、大きなものは生食用にする。形の悪いものや小さなものはジャム用である。へたを取り除いて冷凍しておく。6月に入ると収穫も末期を迎え、小さなイチゴばかりになってくる。こちらは全てジャム用としてストックしておく。小さなイチゴは、体積に対して表面積が大きな比率を占めるので、赤味の強いきれいなジャムに仕上がる。

<白い清楚な花>

 

<そろそろ完熟>

 

<楽しい収穫>

 

<店頭には絶対並ばない形>

 

<全体的に変形したものが多い>

 

◆冷凍しておいたイチゴを鍋に入れ、数時間かき回し続ける。なかなか大変な作業である。手を抜くと焦げ付いてしまう。一旦焦げ付くと、その臭いは鍋全体にまわり、すべて廃棄処分となってしまう。1年間の苦労が水の泡と消えてしまうので、手を抜くことは許されない。

 まず、火にかけて弱火でゆっくりと水分が出てくるのを待つ。水分が出てくるとやや火を強めて煮込んでいくことになる。最初、イチゴから大量の水分(真っ赤できれいな透き通った液体)が出てくる。真っ赤な液体が出たイチゴは薄いピンク色になる。このイチゴは全く旨そうには見えない。さらにこれを煮詰めていくと、実がつぶれ、出ていた真っ赤な液体がこれらと混ざり、全体的に赤いジャムになっていく。あとはどこまで煮詰めるかである。ヨーグルトにかけるソースにするなら、もうこの状態で十分である。これなら相当に歩留まりがいい。大量のソースができる。しかし、ジャムにするとなると、さらに煮詰めなければならない。手間と時間がかかるだけでなく歩留まりも悪い。ソースの三分の二程度の量になってしまう。サラサラとしたジャムでは、パンに塗った時にパンがベトッとなるのであまり好きではない。したがって、さらに粘度が出るまで煮詰める。凝固剤を使わず、水分を抜くことで粘度を出しているので、固めに仕上げると黒っぽい色になってしまう。出来上がったジャムは濃厚そのものである。無農薬、有機栽培のイチゴから、無添加のジャムが出来上がる。唯一、砂糖だけはどうしようもないのが残念である。かつて、砂糖を使わず、蜂蜜だけで作ったことがあるが、イチゴの香りが蜂蜜に負けてしまった。それ以来、蜂蜜は使っていない。このようにしてできたイチゴジャムは、熱湯消毒した瓶にアツアツのまま入れて密封する。これで瓶はほぼ真空状態を保てる。粗熱が取れた瓶を冷蔵庫で保存する。開封しなければ1年間は大丈夫である。わが家では半年で食べ終ってしまう。残りの半年はブルーベリーである。この2種類で1年間のジャムは確保できる。ソースはブラックベリーとラズベリーである。こちらも1年間で食べ終る量である。

 こうしている間にも、今年優秀な実を付けた苗から来年に向けた苗取りが始まっている。さて、来年はどのようなイチゴを提供してくれるだろうか?

 

<冷凍イチゴをジャム用鍋(直径30cm)へ>

 

<徐々にイチゴがピンク色に>

 

<こーんなに減ったが、まだあと1時間>