壮大なる実験

<その1>

 わが菜園は1年を通じて雑草が生え放題である。原因はいろいろとあるが、もっとも大きなものは、無農薬で栽培をしているからである。菜園を始めて11年になるが、農薬は1度として使ったことがない。除草もそれほど頻繁に行なわなかった。したがって、多くの雑草が十分に育ち、しっかりと種を実らせることができた。もう一つの大きな原因は、毎年場所を変えて、菜園の六分の一の面積でピーナツを栽培していることにある。なぜピーナツ栽培と雑草が関係するのか? それはピーナツの特性による。菜園日記の「ピーナツのひみつ」でも書いたように、ピーナツは花が咲いた後、子房柄を地中に差し込む。この時に雑草を抜こうとして子房柄を動かすとそれが地中に入れなくなってしまう。そのため、花が咲きだす7月ごろから、収穫する11月上旬ごろまで一切触ることができないのである。その間にメヒシバ(菜園コラム:メヒシバの侵略参照)は発芽してどんどん広がりを見せる。ものすごい勢いで広がり、光を求めて上方向にも伸びてくる。8月も下旬になるとピーナツの葉とメヒシバの葉がほとんど拮抗するくらいになる。9月になるとメヒシバの先端には多くの種子が付く。これらの1粒、1粒がすべてりっぱなメヒシバに成長するのである。想像するだけでも恐ろしいことである。1つの穂でどのくらいの種子が存在するのだろうか? 試しに1本の穂に付く種子の数を数えてみると180個あった。大きさはわずか2mmである。これが数千倍の大きさに膨れ上がるのである。これ以外にも多くの雑草の種子が存在する。それらがそれぞれに多くの子孫を残そうと、あちこちで時機を見て発芽し始める。おそらく菜園内には数十万、数百万・・・、いやそれ以上と思われるくらい雑草の種子が埋もれているものと思われる。「壮大なる実験」を通して、それらの種の数を数えようというのである。「壮大なる愚行」になるかもしれない。それを覚悟のうえで行うのである。
 次回をお楽しみに!
 
<菜園内をきれいに整地>
 
 
<メヒシバでピーナツが見えない>
 
 
<メヒシバの穂>
 
 

<メヒシバの種>

 

<その2>

 菜園のリフレッシュ。11年間にわたり、四季を通じて100種類程度の野菜を栽培してきた。土もかなり疲労しきっているものと思われる。ここで一度リフレッシュ休暇を与え、今後に向けて鋭気を養ってもらおうと思う。といえば聞こえがいいのであるが、実はそれも目的の一つではあるが、本当の目的は他にある。それは、雑草の駆除である。雑草というよりも、もっと正確にいうと雑草の種子を駆除したいのである。わが菜園内に存在する無数の種子をすべて排除したいというのが目的である。では、どのようにすれば、菜園内から雑草の種子を排除できるか? すべての種子を手で拾い集めるというのはほとんど不可能である。砂鉄のように磁石でくっつけるということもできない。もちろん除草剤を含む薬品を用いることは絶対にしない。それを前提にして、雑草の種子を排除しようというのである。いろいろと思案を巡らし、ほとんど知恵の湧いてこない頭を絞りに絞って出した結論がある。それは、菜園内の種子をすべて発芽させ、それを除草するのである。雑草の種子は好光性のものが多いので、地中深くに存在するものは発芽しない。それだけでなく腐敗することもない。おそらく数年、いやそれ以上存在し続けるものと思われる。それらを無理やり地上へ持ち上げることで発芽させようというのである。この作業を延々と繰り返すのである。除草を手で行っていては、とてもすべてを取り去ることはできない。発芽して一定の期間が経過すると、菜園内を耕運機で耕して雑草を埋めてしまうのである。そうすることで発芽した雑草は埋もれて枯れてしまい、同時に埋もれていた雑草の種子が新たに地表へ出てきて発芽する。この作業を1年半繰り返すのである。

 

<その3>

 夏・秋野菜の収穫が終われば、1年半にわたって新たな野菜を植えず、雑草の種子の発芽と除去を繰り返す。例年であれば、冬に向けて小麦を栽培するのであるが、今回に限りこれは休止した。

 夏野菜であるミニトマト、タカノツメ、万願寺トウガラシの収穫を終えると、残るのはサツマイモ、サトイモ、ピーナツである。サツマイモとピーナツは葉の一部が黄色く色づき、そろそろ収穫の時期ですよと教えてくれる。サトイモは葉をだらりと下げ、こちらも収穫を促している。これらの収穫を終えた11月14日、菜園内をきれいに縦横無尽に耕し、レーキで表面の凸凹をならした。ここから壮大なる実験のスタートである。雑草の生えるのを待つ。寒い時期でも、耕作後わずか7日で雑草の発芽が始まった。しばらく放置し、まんべんなくいろいろな種類の雑草を発芽させる。一定の区画内に生えた雑草の数を数え、これを菜園内の面積に換算して、除草した雑草の数を確定する。その後、耕運機を走らせ新たな発芽を促す。

 雑草にもそれぞれ発芽する季節がある。秋には秋の、冬には冬の時期を好んで発芽する雑草がある。それらにできるだけ多くの機会を与えるために、発芽して一定の期間が経過すると、また耕して残った種子の発芽を促す。発芽すれば耕して雑草を土中にすき込んで肥料化することを繰り返す。さすがに冬は発芽と成長に日数を要する。冬を主戦場にする雑草は発芽してくるが、早い時期に除草するので種子をつける心配はない。

 

<その4>

 菜園内で果樹を植えている部分を除き、すべてで実験を行う予定であったが、どうしてもニンニクだけは植えておきたかった。したがって、これ用に1畝を提供することとした。

 雑草の種子の多くが好光性種子であると思われるので、耕した後地中深くに埋もれたものは発芽することなく、数年間発芽のチャンスを待っていたと思われる。耕作することで地上近くへ誘導された種子は大喜びで発芽するのである。

 毎年春から秋まで多くの野菜を植えて、色とりどりの葉や実が目や胃袋を楽しませてくれていた。冬でもムギを植えて、菜園内を活気づけていた。それがある日突然、全く何も植えられず、一面がきれいに耕作されたままになっているのである。しかも、雑草で埋め尽くされるわけではなく、きれいに除草されているのである。日々ここを通る人にとっては、不思議な光景である。何が起きたのか? ひょっとしてここの主が・・・。しかし、それなら雑草が生え放題になるはずである。きれいに除草されているので、いよいよ意味が分からなくなってくるのだろう。

 ある日、ここを通る人から次のような質問を受けた。「なぜ、整地だけして何も植えないのですか?」。当然である。誰が見ても同じ疑問を抱くであろう。しかし「雑草の種をすべて発芽させるという壮大な実験をしています」とは恥ずかしくていえない。間違いなく変人扱いされてしまう。何とか世間を納得させられるいい言い訳はないかと思案した。そこで見つけたのが、「ちょっと土を休ませています」である。これで多くの人は納得してくれるのであるが、どうしても納得してくれない人もいる。「土も疲れるのですか」「疲れるとどのような現象が出るのですか」「土も休ませると元気になるのですか」「どのくらいの期間休ませるのですか」等、である。野菜がよく育つなどと、目に見える表現を使うと、後々気まずいことが起こる可能性がある。ここは目に見えないものを利用するのがいい。土中の善玉菌が増えることで野菜にとっていい環境ができる、といったところが無難そうである。このいい環境は見ることができないし、野菜に聞くこともできないのでなんとなく気が楽である。

 

<その5>

 ここからは毎回除草した雑草の本数を記録していく。これによって季節ごとにどれだけの雑草が発芽してくるのか? どの程度の周期で発芽してくるのかがわかると思う。

 第1回目は、2020年1月6日である。この壮大なる実験を開始したのは2019年11月14日である。菜園内をわが家の怪力自慢である「ピアンタ」できれいに耕作した。そして早いものは1週間ぐらいで発芽を始めた。寒い時期なのでそれほど多くの種が発芽することはなかったが、1ヵ月を経過するころになるとそれなりに緑が増えてきた。しかし、まだ背丈が低く除草するのが難しいので成長するのを待った。2か月を経過したころになると雑草もそれらしい形体を示してきたので、第1回目の計測を行うことにした。菜園内の平均的な雑草の生え具合を確認し、そこへ紐を正方形に張る。その面積内の雑草を抜きながら本数を数える。これを菜園面積に換算し全体の雑草本数とする。その後はピアンタで菜園内を縦横無尽に耕し、発芽した雑草を地中に埋めると同時に、新たな雑草の種を地上へと導きだす。この間、使用するピアンタの食事代はカセット用のガスボンベ1本(液化ブタン250g)である。これで、しっかりと30分間フル稼働してくれる。このまままたしばらく放置し、雑草が生えてくるのを待つ。

 第1回目の発芽本数:19,500本(368本/日)

<除草区域>

 

<148本を除草>

 

<その6>

 この壮大なる実験を開始した時、どうしても気になったことがあったので、この際それも実験の一部として実施することにした。それは、菜園中をネットで囲うために、あちこちに支柱を立てている。その支柱の際にハタケニラが根付いているのである。これを掘り出すすとなると、支柱の周りを掘り起こさなければならない。何とかそのままの状態で、ハタケニラを根絶できないか? 思案の結果、塩攻撃でやっつけることにした。つまり、ハタケニラの生えている部分に数か所穴を開け、そこへ大量の食塩を投入し、水を流し込むのである。ハタケニラを濃い食塩水が取り囲み、浸透圧の違いにより、球根や根から水分を取り、枯らせてしまおうというのである。球根の周りに大量に発生している子球根も同時に枯らそうという、一石二鳥の作戦である。開始したのが2019年12月19日、しばらくはものともせず、青々と茂っていた。やはり、並大抵のことではびくともしない難敵かと思われたが、じっくりと観察すると葉の輝きがやや鈍くなっているように感じられた。その後もさらに輝きが徐々に失せ、1月10日頃から葉が少し黄色味を帯びだした。その後はさらに速度を速めて葉が黄色くなっていった。1月25日、観念したように完全に枯れてしまった。その後、子球根からの発芽も見られないことから、完全に根絶することができたものと思われる(アレロパシーからの解放でも発芽しない:「ハタケニラノ撲滅作戦」より)。

<どこからでもかかってこい!!>

 

<あれれ、ちょっと苦しくなってきた!>

 

<追い塩でどうだ?>

 

<参りました>

 

<その7>

 第2回目の除草(3月2日):今年は異常に暖かい冬であった。わが菜園内の池には一度も氷が張らなかった。例年であれば薄い氷が何度か張るのである。時として大寒波が押し寄せると、厚さ3cmくらいの氷が張る。こうなると確認のために割ることもままならない。ハンマーでガツンガツンとやらなければ割れない。この音にはメダカもびっくりであろう。身の回りの水も大きく振動し、冷たさが倍増していることだろう(サウナ後の水風呂でじっとしているときに、冷水をかき混ぜられたようなものである)。

 これほど温かい冬であっても、雑草にとってはそれほど発芽する気が起こらなかったらしい。あちこちまばらに発芽をしている程度である。これはこれで一つの記録になるので、雑草の数を数えてみた。申し訳なさそうにこじんまりと生えている。いや、そうではなく、あまり大きくなりすぎると寒さが身に染みるので、わざと小さく生えているのかもしれない。その証拠に根はしっかりとしている。ほとんどの雑草は茎が切れてしまい、根が抜けてこない。この時期の雑草は種類が少なく3種類程度である(ハタケニラは除く)。わが菜園内の雑草に関しては、手ごわいかそうでないかだけが問題となる。名前は手ごわいもの以外は調べることがないのでよくわからないものが多い。測定区画を除草した後は、菜園内全体をくまなく点検し、ハタケニラを見つけるとスコップで掘り起こし、球根部分を確実に確保し排除する。その作業を終えると、ようやくわが友であるピアンタの登場である。全体をきれいに耕作して作業を終える。この間たっぷりと1時間を要する。

第2回目の発芽本数:10,164本(182本/日)

<この程度なら楽勝>

 

<除草完了>

 

<その8>

 ある日、耕作数日後の菜園を見ていると、ぽつりぽつりと雑草の発芽が見受けられた。気温の上昇とともに発芽の周期が早まってきたのである。そう思った数日後、さらに多くの雑草が発芽していた。なぜ、いきなりこのようなことになったのか不思議である。 

 発芽には条件がある。小学校の理科で習う内容らしい。①空気(酸素)、②水、③発芽温度、(④光)である。地球上であれば空気は意識することはない。光については、好光性、嫌光性種子の2種類があるが、今回これはほとんど問題とならない(毎回、耕作することで光を受けるもの、受けないものが適当に入り混じるため)。残るのは発芽温度と水である。発芽温度について、栽培野菜では、レタス(15~20℃)、ニンジン(15~25℃)、ダイコン(15~30℃)、ハクサイ(20~25℃)、トマト(20~30℃)、スイカ(25~30℃)等、である。これらと同様に、それぞれの雑草に対してそれぞれの発芽温度があるものと思われる。1年半をかけた実験なので、その間にそれぞれにふさわしい発芽温度が得られるだろう。したがって、これもそれほど大きな問題とはならない。水に関しては、自然界では雨ということになる。耕作した直後というのは、地中深くの土が掘り返されるので、土全体が湿っぽくなる。しかし、晴天であれば表面の土はあっという間に乾燥してしまう。さらに、強風が吹けばもっと早く乾燥してしまう。これではなかなか発芽することはできない。雨後の筍ではないが、梅雨時の菜園を思い浮かべると、雨で数日菜園へ行かないと、びっくりするくらい雑草が生えていることがある。やはり、水はぜひものなのである。発芽を促すために、スプリンクラーを設置して散水する。スプリンクラー? なんと大げさな、と思われるかもしれないが、これはぜひものなのである。ホースで散水すると、いかにも大量に散水したように見えるが、実際にはほとんど地中にしみ込んでいない。せいぜい表面から1cm程度である。これでは発芽する前に乾燥してしまう。もっと深くまで水を浸透させようと思うとスプリンクラーでじっくりと散水する必要がある。

 発芽の3条件を失念していた、というよりは雑草のたくましさを過信しすぎていた。散水という大事なことを欠いていたことで、発芽に遅れが出ていた可能性がある。今後は、耕作後しっかりと散水をし、早々の発芽を促すことにする。

第3回目の発芽本数:17,820本(557本/日)

<ちょっと増えてきたな>

 

<ふーっ、やっと終わった>

 

<これを2台セットすればOK>

 

<その9>

 5月5日、第4回目の除草である。気温が一気に上昇し、夏日が続く合間に雨が降ったので、雑草が一気に活気づいた。しまった、とは思ったがもう後の祭りである。しぶしぶロープで区画を作り、除草の開始である。見た目にはそれほど多くは感じなかったが、抜いてみるともう大変である。抜けども抜けども、なかなか陣地を広げられない。オセロのように、両サイドを取ればその間にある雑草がすべて抜けてくれれば助かるのであるが・・・。根気よくコツコツと、1本ずつ抜いていく。半分程度抜いたところで、最初に抜いた雑草を見ると、もう脱水状態でややしなびた感じになっている。さらに作業を続けていると、近所のおばあさんから声を掛けられた。1本ずつ雑草を抜いているの? と。まさか、本数を数えているとは言えないので、雑草の種類を調べているんです、とごまかした。いきなり声を掛けられたことと、やっていることの地味さが相まって、何本抜いたかわからなくなってしまった。それほど大量に雑草が生えているのである。

 今後は、測定面積を狭くすることも一考しなければならない。とにかく本数が多いうえに、生えてくる周期が早すぎる。

第4回目の発芽本数:67,188本(2,100本/日)

<数える本数は限界に近い!!>

 

<その10>

 5月26日、第5回目の除草である。気温が上がりだしたため、雑草の発芽速度が一気に早くなった。もう少し成長するのを待ちたかったが、そうすると一面雑草だらけになり、とても除草する気になれないので、ここは一気にやっつけることにした。50cm四方にひもを張ったが、これではとても除草しきれない。急きょ、30cm四方に変更した。これでも相当な数の雑草が生えている。すべてがこちらを向いて笑っているように見える。「抜けるものなら抜いて見ろ! おまえにそれだけの根性があるのか?」と、言わんばかりのようだ。しぶしぶ、手前角から1本ずつ抜いていく。なかなか中央まで進まない。それでも根気よく抜いていく。小さな雑草でも根がしっかりとしている。葉が切れることもあるが、とにかく抜いていく。ようやく半分を抜き終わったところでいったん休憩である。足がしびれる。背中が痛い。柔軟体操をして再度挑戦である。今度は足がしびれないように、ビールケースに腰を掛けて作業開始である。ただひたすら下を向き、わずか数ミリの雑草を抜いていく。ここでふと気が付いた。この小さな雑草がよく見えるのである。新聞などを読むときは老眼鏡が必要になるのであるが、ここではそれを必要としない。それだけ十分な距離があるからである。ありがたいやら情けないやら、複雑な感情を抱きながら作業を続ける。ようやくすべてを抜き終わった。

第5回目の発芽本数:148,600本(7,080本/日)

<・・・見るだけでうんざり>

 

<急きょ、30×30cmに変更>

 

<あ~、疲れた>

 

<その11>

 6月14日、第6回目の除草である。相変わらず雑草の成長速度が早い。そろそろ除草をしようと思っていると、いきなり梅雨入りである。急に天気図がそれらしくなり、雨が降り出したので梅雨入りだという。いい加減なものである。梅雨入りかどうかはどうでもいいのであるが、雨が降ると困るのである。除草ができない。すっきりとしない天気が1週間続き、今日を逃すとまた雨になりそうなので、急いで除草をした。遅れた分、雑草の成長がいい。根が深く抜くのに一苦労である。

【疑問】

 わが家の近くに池がある。不思議な池で水漏れがするという。池より一段低い場所の住人からの訴えによると、水がしみでてくるという。池の大改修工事が去年の暮れに始まった。池の水をすべて抜き、大堤防が築かれた。

 工事が始まって数か月経ったある日、池の近くを歩いていると、ある異変に気が付いた。池の中に草がびっしりと生えているのである。水を抜いたのが去年の年末である。半年程度でこんなにも草が生えるものなのか? 雑草の種が飛んでくるとしても、まだ実を付ける時期ではない。ではこの雑草はどうやって生えて来たのか? 最初から池の底に溜まっていた? そんなに長く水の中で生きられるものなのか? いろいろと疑問が浮かんでくる。しかし、池の中は雑草が生い茂っているという事実は紛れもない。ここで、わが菜園のことが気になってきた。壮大なる実験を行っているが、ひょっとしてわが菜園の雑草も、すべて外部から種が飛んできているのではないだろうか?

 除草した後、外部から雑草の種子が飛散してくるかどうかを確認する必要がある。一区画に直径21cmの筒を3本埋め込み、その上にアクリルの板をかぶせ重りを乗せた。こうしておけば、地中の種子か外部から飛散してきたものが発芽したのかがわかる。もし、ほとんどが外部からの種子であれば、この壮大なる実験は壮大なる笑い話になってしまう。いや、笑っている場合ではない。壮大な時間を無駄にしただけではなく、とんでもなく恥ずかしい発想をした上に、それを堂々と実験していたことになる。

 結果はどうか? アクリル板を取り外し、中を見てみると、中には周りと同じ状況で同じ種類の雑草が生えていた。これでわが菜園の雑草は、外部ではなく、地中の種子が発芽していることが実証できたことになる。これで一安心である。さらに実験を続けることができる。

第6回目の発芽本数:84,000本(4,700本/日)

 

<えっ! これが池?>

 

<大きく育った雑草>

 

<抜くのに一苦労>

 

<雑草飛来防止策>

 

<ほっと、一安心>

 

<その12>

 7月2日、第7回目の除草である。

 梅雨真っ盛りといったところであるが、久しぶりに晴れ間を見ることができたので、急きょ除草を行うことにした。何しろこの日を逃すと、週間天気予報では1週間ずっと雨となっていたからである。今の状態を1週間放置し、その間雨が降りっぱなしということになると、恐ろしいくらい成長することが予想される。こうなると、引き抜く作業に相当な力が必要となる。手の握力がなくなり、指がつってくることも考えられる。作業は早いに越したことはない。

 わが菜園はやや粘土質なところがあり、水はけがあまりよくない。これを解消するには砂や腐葉土などの大量投入が必要である。そこで、菜園の一角で、コツコツと作り続けた残渣やもみ殻で作った腐葉土をこの際一気に投入することにした。大量に作ったように見えても、菜園内に広げてみると、ほんのわずかな量である。表面にうっすらと腐葉土が散らばった程度である。これでは土質改善とまではいかない。大量購入してあったもみ殻と糠も同時にすきこんだ。これで、菜園内は養分たっぷりで、かつ耕作により空気が土中深くまで入り、善玉菌が多く繁殖・増殖して良質な土質になること間違いない(これはあくまでも菜園主の期待を込めた感想です)。

 第7回目の発芽本数:46,600本(2,600本/日)

 ところで、前回確認したことではあるが、さらなる検証が必要であると思われるので、新たな実験を試みることにする。空になった池に大量の雑草が生えたという事実は疑いようがない。ということは、どこからともなく無数に雑草の種子が飛んでくることになる。わが菜園内にもそのような雑草の種子が飛来しないとは言い切れない。そこで今回はその飛来する種子がどの程度存在するのかということを確認したい。方法は、菜園内の土を金属製の入れ物に入れ、そこに水を満々と注ぎこみ土を煮沸するのである。10分間の煮沸で、確実に雑菌や植物の種子は死滅したものと思われる。この土を植木鉢に入れ、耕作後の菜園に配置すればいい。この植木鉢内で雑草の発芽があれば、それは間違いなく外部から飛来したものである。この数を測定し、菜園の面積に換算して、全体の除草数から引いてやればいいことになる。

 

 

<この程度なら楽勝!!>

 

<早々に終了>  

 

<ひたすら土を焚く。人生初体験>

 

<さて、芽が出るか?>

 

<その13>

 7月22日、第8回目の除草である。

【謎の足跡】

 わが菜園をきれいに耕すと、必ずといっていいくらい猫がやってきて糞をする。そこには小さな足跡がきれいに残されている。今回は今までとは違い、大きな足跡がきれいに残こされている。糞をしていないところを見ると、これは猫の足跡ではないように思う。指が長く、先端に爪の跡がはっきりと見える。足跡の大きさが7~8cm、ピッチは30cmで、前足と後ろ足は同じ位置に着地している。

 数年前にスイカを食べられたことがあった。おそらくハクビシンあたりではないだろうかと思っている。今回もひょっとして・・・・。そういえば、菜園内を囲っているネットの一部が大きく破られていたことがある。猫では絶対に破れないと思うので、やはりハクビシンあたりが候補に挙がってくる。現在、壮大なる実験で何も植えていないので、がっかりとして出て行ったのであろう。内部をうろつくこともなく、菜園を斜めに横切り端まで行くと、Uターンして出て行っている。

 雨が続き、大量の雑草が生えるかと思われたが、思いのほか少ない。まだ生えてくるだろうと思い、除草せずにおいていたのであるが、一向に生えてくる気配がないので除草した。時期的に成長が早いため、大きく育ったものを抜くのは一苦労である。除草本数が少ないのは、それだけ地中の種子が減ったためだろうか?

第8回目の発芽本数:16,500本(825本/日)

 前回の実験結果である。菜園内の土を煮沸したものを入れた植木鉢(直径17cm、19cm)は、1本のみ発芽(7月30日、直径19cmの植木鉢に雑草が1本生えてきた。)という結果になった。この雑草は、周りに生えている雑草と同種のものであった。菜園内の雑草の種が飛び込んだということも考えられるので、台を設置しその上に置くことにした。神棚にお供え物をしているような感じである。新興宗教を起こしたのかと疑われるのではないかと心配である。

<菜園内を横切る不気味な足跡>

 

<大きな足跡>

 

<少なくて、ホッ!>

 

<楽勝!!>

 

<その14>

 8月7日、第9回目の除草である。

【土中の種子である確証】

 先日、プランターで花を栽培しようと菜園内の土を入れていた。そのときに気が付いたのであるが、土中1cmくらいのところに、ミニモヤシか糸屑といったようなものがたくさんあった。よく見ると、雑草が発芽しているのである。これらがもう少し大きくなると、地上へ顔を出すのであろう。土中1cmのところに雑草の種が飛散してきていることはないはずである。したがって、これもかつて雑草が落下させた種子であることを証明できるのではないだろうか。ここでさらに疑問が出てくる。菜園内に一定量雑草が発芽すると、除草をして数を確認しているが、これでいいのかどうかという問題である。地表に出た雑草は数えられるが、その時まだ地中で発芽状態のものは数えられない。そのまま耕運機でかき混ぜられ、土中に埋もれて枯れてしまう。そうなると、実際に数えたものよりもはるかに多くの雑草が発芽していることになる。しかし、現状ではそこまでの追及は難しい。とりあえず、地表に顔を出したものを実数として数え、全体の発芽数とみなすことにする。

第9回目の発芽本数:22,020本(1,380本/日)

<土中で発芽>

 

<数は少ない>

 

<前回並み>

 

<その15>

 8月26日、第10回目の除草である。

 連日35℃前後の猛暑で、なかなか除草に踏み切れなかった。というよりは、その後の耕作が恐ろしくて行えなかった。そのため、雑草は大きく成長し、菜園中が緑のじゅうたんになる手前であった。雑草の種類はほぼ3種類である。スベリヒユ、オヒシバ、メヒシバである。中でも、オヒシバが圧倒的な勢力を維持している。

 今回は、植木鉢に雑草が生えなかった。思ったほど種は飛来していないのではないだろうか。前回1本発芽したものは、植木鉢を菜園に直置きしていたため、土砂降りの雨のときに、菜園の土と一緒に跳ね上がった可能性がある。この跳ね上がりを防止するために台を設置しその上に植木鉢を置いた。この高さであれば雨による跳ね上がりを防止することが可能である。しかし、何も植えられていない、きれいに耕作された菜園の真ん中に、台を設置し大小2個の植木鉢が置かれている。これはどう見ても不思議な光景である。気持ちが悪いということもできる。台を撤去し、ブロックを横向きに設置し、そこへ植木鉢を乗せた。あまり変わらないが、神秘性はやや和らいだ。

第10回目の発芽本数:22,000本(1,160本/日)

<ちょっとは神秘性が和らいだ?>

 

<菜園中びっしりと雑草が・・・>

 

<大きいが数は少ない>

 

<その16>

 9月14日、第11回目の除草である。

 2、3日前から急に涼しくなり、一気に秋の気配を感じるようになった。真夏日が続いて、雑草もいささかうんざりとしていたのではないかと思われる。涼しくなり、これから一気に発芽するかもしれないので、きれいに除草しておくことにした。ここ数回の除草状態を見ていると、そろそろ夏向きの雑草の種が尽きてきたのではないかと思われるくらい発芽数が少ない。それとも暑さで発芽を見合わせているのだろうか。これから涼しくなるので、それがどちらであるかがはっきりとするだろう。とにかく除草する本数が少なくなるのはありがたい。

 今回の発芽はかなり少ないので、従来の50cm×50cmの広さに戻すことにした。それでも除草本数はかなり少ない。

第11回目の発芽本数:7390本(390本/日)


<50cm×50cmに戻す>

 

<わずかな数の除草>

 

<その17>

 10月21日、第12回目の除草である。

 雑草の生える量が大幅に減ってきた。前回から1ヵ月以上経過している。生える雑草の種類が一気に変化した。ほとんどがホトケノザである。いままで11回除草しているが、その間には全く発芽をしていない。もちろん、その間に何度も耕されて、地表近くへ出てきて発芽のチャンスはあったであろうが、温度が合わなかったのであろう。そろそろ涼しくなり、自身の発芽温度が訪れたのものと思われる。あちこちで一斉に発芽が始まった。おそらくホトケノザも大量に種を落としているので、今後はこれが主流をを占めるであろうと思われる。毎年越年させる野菜として、ニンニクを栽培しているが、そのときもよく発芽しているのを見かけたものである。成長する早さはニンニク以上である。これも毎年のことであるが、もう少し寒くなるとハコベが出てくる。そのころにはおそらくハコベが主流を占めると思われる。両雄並び立たずというが、そんな格言は雑草には通用しない。まだまだ、雑草のピークは続くのである。

第12回目の発芽本数:9770本(260本/日)

 

<楽々終了>

 

<その18>

 11月26日、第13回目の除草である。

 前回から生える雑草の種類が一変した。今回は前回の種類に加えてハコベが混ざり始めた。いよいよ冬到来という感じになってきた。ハタケニラの発芽もあちこちで始まった。スコップでごっそりと土を浮かせ、球根を取り出す。まだ球根は小さく、5mm程度のものがほとんどである。これが数か月もすると、1.5cmくらいになり周りに子球根を付けだす。もうこうなるとお手上げになる。子球根を付ける前に徹底的に処分しなければならない。手間はかかるが、今後のことを考えるとこれが最善の方法である。今回は30本程度処理をした。

 雑草もうまくすみ分けをしている。夏には夏の、冬には冬の雑草が時期を間違えずに発芽してくる。今発芽している種類は、夏のくそ暑い時期には死んだふりをして、地中でこの時期の到来を待ち焦がれていたのであろう。寒いにもかかわらず、嬉しそうに生き生きと成長している。まだこの土のなかには相当数の種子が待機しているものと思われる。これが1年かけて続けなければならない理由である。

第13回目の発芽本数:7260本(210本/日)

<今回も楽勝!!>

 

<その19>

 2月18日、第14回目の除草である。12月に続き1月も、一度も除草することなく終わってしまった。あちこちで発芽はしていたのであるが、成長が遅くまだ地中から顔を出していないものが多くありそうなので、じっとその時期を待っていた。しかし、去年の冬に一度除草しているので、それほど多くの未発芽種子は残っていないのだろう。冬に生える雑草が種子を付けるころは、夏野菜を植える時期と重なる。それらは菜園全体が耕作されることで、実を付ける前に地中に埋もれてしまう。したがって多くの種を付けることなく枯れてしまうことになる。それが幸いしているのかもしれない。とにもかくにも、雑草が少ないのはうれしいことである。

 夏に比べると、雑草の種類は違うが、成長速度は5倍程度遅いのではないだろうか。じっくりと着実に成長しているように感じる。地上には、それほど大きく目立った状態を表すわけではないが、地中に存在する根は相当なものである。びっしりと張り巡らされた根の長さと密度はたいしたものである。厳しい冷え込みで霜柱が立つことがあっても、全くびくともしないだろう。それくらいの自信を感じさせる根である。

第14回目の発芽本数:4500本(54本/日)

<ちらほら状態>

 

 

 <超楽勝!>

 

<がっちりと土をつかんでいる根>

 

<その20>

 3月30日、第15回目の除草である。3月になり気温が上がってくると、あちこちでこれでもかといわんばかりに雑草が顔を見せる。これを合図に、雑草との長い戦いが始まるのである。ところが、今までの除草の効果が出ているのであろう、それほどの発芽が見られない。それでも、3月下旬に異常なくらい気温が上がったため、むくむくと土を持ち上げ雑草が生えだした。時期的にはあと1回くらいしか除草できないので、ちょっと無理をして小さな手でつまむのも難しいような雑草を除草した。

第15回目の発芽本数:4750本(120本/日)

<こーーんな小さな雑草です>

 

<小さすぎて抜くのが大変です>

 

<その21>

 4月21日、第16回目の除草である。時期的にはこの除草が最後になるだろう。そろそろ夏野菜の準備をしなければならない。1年半にわたり菜園には何も植えていなかったので、土はリフレッシュされ、あらゆる作物を受け入れてくれるものと思われる。この時を待ちに待った。多くの種苗店やホームセンターを回り、いろいろな苗を見て回りたい。そして多くの種類の作物を育て、それぞれの特徴を十分に引き出し、美味しくいただきたいと思う。

 壮大なる実験としての除草が最後になると思うと、なんとなく感慨深いものがある。菜園主から見ると厄介ものであっても、世間では普通に存在するのが当たり前である。それをなくそうというのである。しかも、1年半という長期間をかけて実施してきた。この間、ここからは何の作物も得られなかっただけではなく、膨大な労力を費やさなければならなかった。「ここにはいったいどのくらいの種子が埋もれているのだろうか?」 「そしてそれらをなくすことができるのだろうか?」 という単純な疑問に対する答えが欲しかったから続けられた。答えが得られたからといって、そこから何かが変化し、大きなものを手にするということはない。得られたのは疑問に対する答えだけである。しかし、この疑問に対する答えはどこを探しても出てこないし、誰にも答えられない。やったものしか得られない答えである。

 じっくりと考えてみると、まず、一般の人はこのような疑問を抱かないであろう。「雑草は抜いても抜いてもまた生えてくる」「毎日が雑草との闘いである」等で終わる。もし、それ以上の疑問を感じたとしても、それを解決しようとは思わないだろう。それは費やす労力と得られる結果にあまりにも大きな開きがあるからである。しかも得られた結果は一般論ではなく、ここの菜園の現状のみに適用できる結果であるからである。応用性に欠けるのである。雑草が生えるなら、農薬をまけばたちどころにきれいになる。「何の問題もない!」「No problem!」「没問題!」ということになるのかもしれない。

 それでも大満足である。疑問を持つことの重要性、そしてそれを徹底的にやり遂げ、そして結果を出す。今までの人生でやってきたことと同じことを菜園でも実行できたことに満足である。

 今回も前回同様に小さな雑草ばかりであった。写真を見ても気が付かないくらい小さい。第16回目の発芽本数:3560本(160本/日)

<見えるかな?>

 

<ほとんどが切れてしまう>

 

<まとめ>

 1年半にわたる長期間の雑草の種子発芽実験により、49万個の雑草の種子を発芽させることができた。日割り計算で見ると、最盛期には1平方メートル当たり210本の雑草が生えたことになる。これでは、抜いても抜いてもまた生えてくる、という表現があながち間違っているとは言えないことになる。こんなことを今までずーーーとやってきたのである。情けないくらいがっかりすることではあるが・・・。

 今回の壮大なる実験がどのくらい有効なことなのかはわからないが、この数字分だけ菜園内から雑草の種子が減ったことは事実である。そしてもっとも重要なことは、この間に生えた雑草は、すべて種子を付ける前に除草したということである。外部からもたらされる種子もないことと併せて考えると、今後生えてくる雑草は、壮大なる実験を行う前から存在した種子であるということになる。実験中にあるように、5月ごろをピークに急激に発芽本数が減っているので、菜園内の地中にはもうそれほど多くの種子は残っていないとみることができるのではないだろうか。毎年プランターで栽培しているイチゴの土は、10月ごろに菜園から採取している。今年はプランター内で生える雑草が、著しく少ないことでもそれを感じることができる。

 今後は生えてくる雑草が種子を作る前に確実に処理し、一味違う菜園を展開していきたい。雑草の生えない菜園がどれほど魅力的なのか、それとも不自然な菜園になるのかは今後のお楽しみである。

 1年半にわたり何も植えられることがなく、菜園の中央にぽつんと置かれた2個の植木鉢(外部からの飛来種子確認用)が異様な光景に映ったかもしれない。それはあくまでも見た目であり、やっていることの内容を聞くともっと異様に感じられたかも知れない。近所やここを通る人々には、非常な迷惑をおかけしたことをここでお詫びしたいと思う。長年家庭菜園を行い、その間ずっと雑草と闘い、苦戦し、あきらめて、雑草におおわれた野菜を見てきたこともある。それも自然だと受け入れてきたが、どこかで納得できない部分があった。今回はそれを払しょくするために一大決心をしてこの壮大なる実験を行った。この実験の成果が今後にどのような影響を及ぼすのか? 結果が出てほしい気持ちはあるが、出ない方が自然でほっとするような気持でもある。ひょっとすると数年後に、この実験はまったく意味のない無駄なことであったということがわかるかもしれない。それはそれでよし。思ったことをして結果を出すことに価値をみいだしたい。

 闘い続ける相手がいるから人生は楽しい。