酒は百薬の長、コミュニケーションの潤滑剤、ストレス発散等、いいことづくめのようであるが、これによる失敗や被害も多い。いいことは人それぞれ思い出としてしっかりと胸の内にしまっておいてもらえばいい。ここでは経験した失敗例を挙げてみたい。
かつて丸の内線で通勤していた。酒に酔った状態で電車に乗り、いい気分で席に座り寝ていた。目が覚めると「新宿3丁目」のアナウンスが流れていた。次の「新宿駅」で降りるのである。が、気が付くと見知らぬ景色になっていた。ここでアナウンスが流れ、「中野坂上」というではないか。乗り越してしまった。反対側のホームへ向かい、目的の「新宿駅」を目指した。が、しかし、またしても乗り越してしまった。「新宿3丁目」で乗り換え再度「新宿駅」を目指した。もうお分かりと思うが、この後2度乗り越しをした。絶対寝ないようにするために、席には座らず、吊革を持って立っていたにもかかわらずである。ここまでくると、もう腹が立つやら情けないやらで、感情の持って行き場がなくなってしまった。無性に何かを蹴飛ばしたくなったが、適当なものがなかったので我慢した。ホームでしばらく次の一手を考えていたところ名案が浮かんだ。やってきた新宿行に乗り込み次なる作戦を開始した。座ることも吊革を持つこともせず、ひたすら車内を歩き続けた。もちろん乗客は変な目で見ることはあるがそんなことは気にしていられない。このようにしてようやく近くて遠い「新宿駅」に到着することができた(注1)。
作戦成功に気分をよくし、最寄り駅までの路線である京王線へと向かった。特急に乗り込み、しっかりと席を確保し読書を始めた。今度は丸の内線の行ったり来たりではなく、終点の八王子まで行ってしまった。戻りの電車はなく、長いタクシーの列に並ぶしか手はなくなってしまった。ここでしっかりと酔いも目も覚めた。飲み代よりも高いタクシー代を支払う羽目になってしまった。今回の件で時間と金を無駄にしてしまったが、大事に至らなかったことを喜ばなければならないかもしれない。電車内とはいえ、まったく無防備な状態で意識を失っているのである。その間に何かがあっても驚けない。
注1:現在は「新宿駅」と「中野坂上駅」の間に「西新宿駅」ができている。これがその当時にあれば、おそらくこの寝過ごし事件は起きていなかっただろう。とにかく寝てしまうくらい駅の間が長かったのである。同じような経験をした人が多く、駅を増設する声が多かったのだろう、と思いたい。