139.酔っ払い考(その3)
酒を飲むとその人柄がよくわかる。明るくなる人、愚痴を言う人、ねちねちと絡む人、何度も同じことを繰り返し言う人等、いろいろである。おおざっぱにいって、いい方よりも悪い方へ変わる人の方が多いように思う。素面では言えないので酔った勢いで言おう。言うつもりはなかったのであるが、酔いで自制心が弱まりつい余計なことを言ってしまう。最もいけないのは、酔いに任せて女性に不正行為をすることである。多くの場合やった事実は認めるが、合意があったということで揉める。合意があればもめることはない。合意がないからもめているのである。女性に訴えられた時点で「負け」である。いくら密室で、だれも証明できないからといって「合意」を持ち出してはいけない。「やった」時点で負けである。車の運転と同じで「飲んだら乗るな」が原則である。
酒の席でももめごとはあちこちで目にする。しかし、当事者ではないので気楽に見ることができる。そんなのんきな気分でいるとき、目の前で事件が起こった。もし、もめれば逃げることができない。どうにか納めなければならないかもしれない状況になった。終電近くの車内での出来事である。ほぼ満員になった車内で吊革を持っていた。隣の若い男性はかなり酔っぱらっている。吊革を両手で持ち右に左にグラグラとし始めた。今度は前後にも揺れ始めた。このまま放って置けば回転するのではないかと思えるぐらい揺れている。あまりにも揺れが激しいので、こちらへ来た時には電車の揺れに合わせて押し返していた。いつものことながら、事件というのは突然やってくる。吊革を持った男性がいきなりゲロを吐いた。しかも座っている中年男性の足の上である。「えぇーーー、そこに吐く?」これは大事件になる。車内で殴り合いの大喧嘩を予想した。大阪なら間違いなく中年男性が「何さらしとんじゃー、次の駅で降りろ!!」が決まり文句である。しかし、ここ東京ではそうならなかった。たまたま穏健な人だったからかもしれないが・・・。中年男性が「どうするんだよ」、若い男性が「出たものはしょうがないだろう」。これで会話は終了である。中年男性はズボンの後ろポケットからハンカチを出し、ゲロがべっとりと付いたズボンを拭き始めた。何とか丸く納めなければと内心心配していたがそれは取り越し苦労に終わった。それは喜ばしいのであるが臭いが耐えられない。すぐに次の駅で下車である。
大喧嘩をしても何の得にもならない。かといって何も言わないのも納得がいかない。ここは冷静に、真摯にお詫びをし、クリーニング代を少し多めに支払うのがベストではないだろうか。酔うということは、正常な人間を正常でない人間にしてしまうので、正常な判断ができる程度の酔いを心掛けるべきである。それができれば正常な人間ではないかもしれない。