スイカ水
夏の夕方、朝から井戸水で冷やしたスイカを縁台で食べる。種は当たりかまわずそこら中にペッ、ペッと吐き出す。縁台の下には、豚の形をした蚊取り線香入れを置く。スイカは船形がいいかそれとも三角形に切るのがいいか? 風情があるのは船形であろう。しかし食べやすさは三角形である。ここは食べやすさを重視して三角形に切るのがいいだろう。ここに竹骨のうちわがあれば申し分ない。柔らかく優しい風がすーーーと通り抜ける。プラスチック製のうちわでは風が堅い。
今の時代にこのような風情を感じることは難しい。材料はすべてそろえることは可能であるが、気温ばかりはどうにもならない。日が落ちても30℃を下回らない。打ち水をしようものなら、さらに湿気で暑く感じる。熱気がこもっているのでどうにもならない。これではいくらうちわであおいでも熱風が来るだけである。スイカにいたっては、井戸水程度の温度ではすぐになまぬるく感じてしまう。冷蔵庫でキンキンに冷やしたくらいがちょうどいい。これでは風情も何もあったものではない。
さて、わが家庭菜園である。去年は苗、栽培方法ともに問題があり、まともなスイカは1個たりとも収穫できなかった。今年こそはと意気込み、すべてをベストな状態にして栽培をした。そのかいあって大収穫となった。小玉スイカといえども、その大きさはわが菜園内では1位である。うれしい反面その消費に関しては不安を感じていた。案の定、不安が的中した。受粉がほぼ同時期に起こったため、収穫がほとんど同時期になってしまった。これだけでも大変なのに、完熟手前でツルの勢いが急激になくなってきた。このままではすべてのスイカが完熟を迎えないままツルが枯れてしまうことになる。肥料や水を調整したがツルの勢いは衰えるばかりである。覚悟を決める必要がある。この状態ではご近所にオスソワケというわけにはいかない。「こんなまずいスイカをよくぞくれたものだ!」ということになりかねない。わが菜園は「収穫したものは確実に消費する」ということを原則にしている。
何とか生食で3個を消費した。食後のデザートにスイカ、おやつにスイカ、寝酒のつまみにスイカ(塩をつけると結構いける)である。しかし、残された12個はとても期限内には食べきれない。通常、果物は保存食としてジャムにすることが多い。そしてたいていは美味しくなる。ところがスイカはそうではない。色はきれいが味に問題がある。とても美味しく食べられる代物にはならない。何とかこれをおいしく消費する方法はないか? いろいろ思案している時に冷蔵庫のオレンジジュースが目に入った。これならいけるだろう。完熟手前のスイカに足らない糖分はどうでもなる。水代わりに飲むのであれば砂糖は必要ない。むしろ若干の塩を加えることで、汗で不足した塩分を補える。保存はペットボトルに入れ冷凍すれば数か月は可能である。これはいいアイデアである。早速スイカジュースづくりである。ざく切りにしたスイカを布巾で絞る。さすがに絞りカスは捨てることにした。種が結構混じっていて食べる気がしないのと、食べられるようにする案も出てこないからである。絞ったジュースは漏斗を使ってペットボトルに入れる。冷凍時は体積が増えるので、ペットボトルの脇を推さえ若干へこませておく。冷凍したものは、用途に応じて塩や蜂蜜を入れて飲む。最高の飲料水である。
スイカは大きさの割に非常に重い。つまり、ほとんどが水分なのである。1個の小玉スイカで500ccのペットボトルが3本できた。しばらくはミネラル満点の飲み物で無敵を誇ろう。夏バテとは無縁な日々である。しかし、糖分の取り過ぎには要注意である。Tシャツの下に、スイカ1個分くらいの膨らみが出来てはたまらない。