パクチー
パクチーと聞いただけで「うっ」と顔をそむけたくなる人が多いのではないだろうか。あの独特なにおいが原因だと思われる。そう、カメムシのにおいである。形を思い浮かべるだけでもぞっとする人が多いだろう。そのぞっとするようなカメムシを口に入れたことがある。自ら好んで口に入れたわけではない。かといって誰かから無理やり入れられたわけでもない。自然に偶然入ったのである。かつて、多摩川の河川敷を毎週のようにロードバイクでサイクリングをしていた時期がある。夏の暑い日に、はーっ、はーっ、と口で息をしながら走っていると、偶然カメムシが飛んできて口に入った。かなり口の奥まで入ったので、吐き出すのに苦労した思い出がある。あまりの出来事にびっくりし、においや味に関してはそれほど大きな印象は残っていない。ただ、臭かった程度である。
その後長い年月が経ち、タイ料理や中華料理等でパクチーを食べるようになった。あの嫌なにおいのカメムシが姿を消し、この香りが食欲を増進させる食べ物に変化した。もちろん料理との相性というものはある。個人的には鶏料理との相性がいいように思う。当然追いパクチーである。そんなパクチーを心置きなく食べるには、自宅で栽培するしかない。
パクチーの種を購入し育て始めたのが4、5年前である。大量に栽培する野菜ではないので、菜園の隅っこに種を蒔いた。他の野菜を栽培するには不向きな場所であった。すぐに発芽をはじめ、青々としたセリに似た葉っぱが出てきた。早速ちぎって食べると、特有のにおいがするそれであった。しかし、単体で食べるとそれほどおいしいものではない。においが鼻につき、口中が不快である。そのセリのような形の葉っぱが出ている期間は短く、すぐにとう立ちのような感じで軸が伸びてくる。葉っぱの形が一気に変わり、細かくなりニンジンの葉っぱのようになる。味は変わらないが見た目が貧弱になる。あまり大量に手で収穫すると、洗っても匂いが落ちない。
とう立ちしたところには白く小さな花が無数に咲く。その咲いた花のほとんどすべてが実になる。ものすごい数である。ハーブとして売られているコリアンダーシードである。大したことではないのであるが、ここで不思議に思うことがある。パクチー(タイ語)、シャンツァイ(中国語)は葉っぱを指し、コリアンダー(英語)は実を指すように区別していることである。そのコリアンダーを植えた場所から毎年春になると芽が出る。パクチーは一年草であるから、毎年種を蒔かなければ芽は出ない。ということは、収穫時にいくつかの種が落下しているのである。ありがたいこぼれ種の恵みである。パクチーはビタミンB2、C、E、カリウムが含まれる素晴らしい野菜である。これから収穫した種にもおそらく十分な栄養素が含まれていることであろう。今後はこの種(コリアンダーシード)の有効利用を考えなければならないくらい種が収穫できる。
<初期のころの葉っぱ>
<花が満開>
<たくさんの実が付く>
<乾燥させればコリアンダーシードの完成>